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高知の褒め称えられない英雄たち: ナス生産者

記事・写真: ジェニー・カーン、 和訳: ポール・フィオラヴァンティ
ナスを切っている西山周良さん
ナスを切っている西山周良さん

 私は大変な窮地に立つことになりました。ある日の夕方バスに乗って、私は安芸市から東へすぐの安田町へ向かっていました。見ると、私の向かいに優しそうなおばあさんが横に買い物かごを置いて座っていました。私の生徒たちも周りにいて、お互いにおしゃべりをしながらバスを降りてそれぞれの家に帰っていき、そして私の家の台所にある机の上にさりげなく私の財布があるのが思い出され・・・。バッグをのぞきこみ、これらのことから導き出される結論に達した時、私は固まってしまいました。動悸は激しくなり、目に見えない屈辱から心は揺れましたが、なんとか解決を試みようとしました。生徒にお金を貸してくれと頼むのは信用を失いそうでしたので、何回か携帯電話をかけてみるとやっと私の拳法の先生につながりました。5分後、私はバス停に降りたちました。そこには呑気にくわえタバコをして、のばした腕の手にお金を握った先生がいたのです。その瞬間、彼はほとんど追いつめられていた私をたった一人で窮地から救ってくれたのです。私が10回目のお礼を彼に言う前に彼はそこを立ち去り、優先すべき彼の仕事に戻るために車に乗って田舎の道を行ってしまいました・・・彼の仕事、それは温室でナスを育てることです。

 高知の人と言ったら、「ナスを作る人」と浮かぶかもしれません。作物にかける日頃の労苦に見られるその寡黙なヒロイズム、苗作りと収穫・・・すべてがこれぞ人生という叙詩的な努力を喚起させます(まあ、そこまでではないかも)。けれどナスを作る人は高知で本当に重要な人物です・・・神話学ではそうではないかもしれないけど、少なくとも経済と料理には!

 1998年の日本国内総生産は498,016,898億円、国内農業生産の割合は9,868,000億円でした。その中で高知県農業生産の割合は122,500億円、ナスの生産の割合は25.8%です。ですから温室や畑が広がる風景の中に、高知の農業としてナスが目立った定番だとしても驚くことはないのです。行くところどこでも食べられます。例えば給食の漬け物、宴会での焼きナス、イタリア料理店でのパスタのトッピング、専門店でアイスクリームの面白い味としても出ています。

 お金を手に持ち、ナスの喜びについて教えてもらうためにもう一度安田町に行き、私の拳法の先生、西山周良先生のお宅にお邪魔しました。日が暮れるちょっと前にお宅につくと、西山先生と彼の奥さんに出迎えを受けました。彼は全部で3つの温室を持ち、それぞれにナスが一定の間隔で植えられていました。高知県民にとって農業はビッグビジネスでも比較的小規模に行っています。通常、農業をする人は2・3の温室を持っていると彼から教わりましたが、西洋だと農業事業はものすごく大規模なので逆にびっくりしました。

 それにもかかわらず仕事は忙しいです。ナスは一年中育つので毎日仕事があります。仕事の予定を聞くと、「6時ごろ起きて仕事を始めます。午後10時まで続けることもあります。3月から6月がピークなので、その時期が一番忙しいです」と答えました。

ナスの本物
ナスの本物

 ナスの栽培では、予定表に毎日違った仕事が書き込まれています。ナスはめったに種から育てず、苗木を買ってきます。1ヶ月もたつと、どんどん大きくなって実をつける準備ができます。それからは実の世話をして、熟した実を収穫したり、太陽の光を十分に当てるためにつぼみの周りの花を摘み取ったりします。どの木もだいたい9ヶ月で終わり、また次のサイクルが始まります。

 生産を拡大するとなると、昆虫の世界も手伝ってくれます。受粉の過程を援助するミツバチを温室に放すために購入します。
 「毎年温室に24,000匹を使っています。」
 「ええ、危ないんじゃないですか」と聞くと、
 「いや、大丈夫」と言ってくれましたが、私はいまいち納得できませんでした。
周りを見ると、収穫されたナスが手押し車や箱にいっぱい入っています。
 「これをどこで売っていますか」と聞いてみました。
 「JAに売ります」
 「ナス以外の作物も育てていますか」
 「米とオクラも植えています」
 「それぞれの生産割合はどのくらいですか」
 先生と奥さんはお互いに少し考えてから次のような結論に達しました。生産している作物の70%は米で、ナスは25%、オクラは5%だそうです。しかし、その3つのうちでナスは農場の利益の約90%をあげ、他の2つに比べてはるかにお金になるそうです。
 「農業を始めてどれくらいですか」
 「8年くらいです・・・以前はサラリーマンでした」
 「どっちの方が好きですか」と聞いて、土地を耕すことについてロマンチックな話が出ると願っていました。
 「サラリーマン」と、先生は笑いながら答えました。「でも、私の前にナスを作っていた父が、年をとって仕事ができなくなったので後を継いだのです」
 農業は次の世代に渡るのが普通で、跡継ぎは長男になることが多い、と教えてくれました。けれど先生の場合は先生とともに農業への取り組みが終わってしまいそうです。
 「息子は消防士です。農業者になりたくないんです」と失望した様子もなく言いました。若い世代にはいろいろ機会がありますから、県内でも長男が後を継ぐようなこともだんだん関係なくなっていると思います。

ナスを仕分ける
ナスを仕分ける

 それにもかかわらず、家族を中心としてナス農業は進歩しています。実際、農業は男女関係なく同じだけの利益を得ることができるので、より良い男女平等の仕事だと思います。2000年に高知県で農業に従事していた68,762人のうち、36,068人が男性、32,694人が女性でした。夫婦で一緒に(時には祖父母の手も借りて)働くことが珍しくありません。

 先生は最後に、ナスに関わった知恵として農業における3つの「き」を教えてくれました。つまり、「きつい」「汚い」「危険」です。後の方は、たぶんトラクターや重い農具の利用に関係しているかもしれません。ハチにも関係があるでしょう。

 帰る準備をしている間、西山先生と奥さんはひっくり返した木箱に座って、向き合ってナスを品質ごとに仕分けしていました。私は荷物を片づけながら周りを見渡しました。暗くなってゆく夜の空に浮かぶ温室のアウトライン、車道の至るところに留めてある白い作業用トラック、黙ってナスを仕分けする夫婦の姿が目に入ってきます。昔の坂本龍馬のような英雄の話ではありませんが、この暮らし方もまちがいなく高知の伝説として尊敬の念を持って残されることでしょう。

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当初オーイ!高知2002年11月26号で出版されました。
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